TCFD提言に基づく開示

TCFD提言への対応

当社グループでは、「変えよう、毎日の美味しさを。広めよう、世界に喜びを。」をVISIONに掲げています。 お客さまに安全で美味しい食を届け続けるためには、事業活動における未来を見据えた持続可能(サステナブル)な取り組みが欠かせません。 とりわけ、当社グループは多種多様な海洋水産・農林資源を原材料として使用していることから、気候変動を重要な経営リスクのひとつとして位置づけ、 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき、気候変動に関わる情報を開示いたします。

1. ガバナンス

当社グループの取締役会は、気候変動問題を重要な経営課題の1つとして認識しており、監督を行っております。 具体的には、取締役会は、経営戦略や経営計画等の策定に際して、気候変動問題に関する「リスク」や「機会」を踏まえた審議を行っており、 必要に応じて各グループ会社・各部門から報告を受け、監督を実施しております。
加えて、当社グループはサステナビリティをグループ全体の経営課題として明確に位置づけ、サステナビリティに対する取組みを推進するために、 代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会を設置しております。サステナビリティ推進委員会は、 経営会議に対し気候変動対応を含むサステナビリティに関する状況を適宜報告し、指示・助言を受けることとしています。 さらに、代表取締役社長は必要に応じてそれらの状況を適宜取締役会に報告いたします。

ガバナンス体制図

2. 戦略

当社グループは、TCFD提言が推奨するフレームワークに基づき、気候変動が当社グループへもたらすリスクと機会の特定と、異なる気候関連のシナリオを用いた分析を実施いたしました。 今後、当社グループは、リスクと機会に関する分析の更なる深化を通じ、脱炭素社会の実現に向け、リスクの最小化、機会の最大化を図ってまいります。
シナリオ分析にあたっては、気候変動に関連する当社グループのリスクを抽出し、そのうち特に当社グループへの影響度が高いと想定されるものに対してシナリオ分析を実施いたしました。 シナリオ分析の結果を受け、リスクの最小化、機会の最大化に向けて必要な対応策を整理しています。特に当社グループの事業継続上、 最も重要と想定される原材料調達に対する気候変動の影響については、魚種や生産地域等から詳細な分析を行いました。

シナリオ分析の前提条件

当社グループでは、気候変動に関連する物理的リスク・移行リスク及び事業機会の把握に加えて、それら気候変動リスク・機会が事業戦略・財務計画に及ぼす影響を評価しております。 シナリオ分析にあたっては、当社グループの中心事業である株式会社あきんどスシロー(国内)を対象とし、時間軸としては、移行リスクに関しては2030年、物理リスクに関しては2050年を選択しました。 また、シナリオについてはIEA(国際エネルギー機関)によるSustainable Development ScenarioやIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による Shared Socioeconomic Pathways 5-8.5などのシナリオに基づき、2℃未満シナリオ及び4℃シナリオによるシナリオ分析を実施しています。

シナリオ分析の結果

2℃未満シナリオにおける当社グループの主なリスク・機会としては、脱炭素社会に向けた規制や政策の強化、消費者の嗜好の変化、サーキュラーエコノミーへの移行などが挙げられます。 具体的にはカーボンプライシング導入によるエネルギー調達コストの上昇による店舗運営・調達コストの上昇や、プラスチック規制や食品ロス対応の強化を通じたコストの上昇が予想されます。 当社グループでは、再生可能エネルギーの導入やクリーンエネルギーへのシフト、 省エネルギー設備の導入等を通じたエネルギーの脱炭素化やプラスチック製容器等から紙製容器などへの変更を積極的に行うとともに、リサイクル・再生資源などの導入検討を通じた脱プラスチック化、 食べ残しなどの食品廃棄物を飼料やバイオマス燃料等への再利用の導入検討を通じたサーキュラーエコノミーへの貢献などを促進することで、リスクを最小化し、差別化による事業機会の拡大を目指してまいります。
また、4℃シナリオでは、気温上昇が進むことで、自然災害の激甚化、平均気温の上昇、気象パターンの変化などの物理的リスクが顕在化すると想定しております。 具体的には、自然災害の激甚化により当社グループの店舗運営やサプライチェーンなどへの影響や平均気温の上昇や気象パターンの変化により生態系への影響が顕在化し、 当社グループの原材料の調達に影響を受けることが挙げられます。当社グループでは、店舗開発や運営時に物理リスクに対する対応を検討することでリスクを最小化するとともに、 調達網の多角化等の取り組みを通じてサプライチェーンのレジリエンスを確保していきます。
なお、各シナリオにおいて特定されたリスク・機会は、サステナビリティ推進委員会や内部統制委員会と共有し、適切に対応を行い、 当社グループにおける気候変動リスクに対するレジリエンスを確保すると同時に機会の最大化を目指してまいります。 引き続き、シナリオ分析及び財務インパクトの影響の精緻化、リスク・機会及び対応策の経営計画への具体的な反映を通じて、気候変動対応を進めていきたいと考えております。

財務影響および対応策

リスク 内容 財務影響 対応策および機会
4℃ 2℃
移行リスク 政策と法
  1. カーボンプライシング導入による店舗運営コストの上昇
  1. 当社は2030年までにCO2排出量を原単位当たり*50%削減(2013年比)を目指します。
    *原単位:CO2排出量/売上高百万円
  2. サプライチェーン全体でのCO2排出量削減への取り組みも検討してまいります。
  3. エネルギー利用については、再生可能エネルギーの導入や低炭素原燃料等のクリーンエネルギーへのシフトを進めるとともに、省エネルギー設備の導入等を通じた生産の効率化を進めていく計画です。(取り組み①参照)
  4. プラスチック製容器等への規制に対しては、紙製容器などへの変更を積極的に行うとともに、リサイクル・再生資源を活用した容器の導入も検討してまいります。
  1. カーボンプライシング導入による調達コストの増加
  1. 低排出設備への投資やグリーン電力購入等の低炭素化への対応コストの増加
  1. プラスチック製容器等の使用に対する規制への対応
  1. サプライチェーンも含めたレピュテーションリスクや対応コストの増加
テクノロジー
  1. 代替たんぱく質技術開発への投資・導入に伴うコストの増加
  1. 低・脱炭素食材については、大学等外部研究機関との協業強化により、商品化に向けた研究を進めていくことで、収益への寄与を目指します
市場
  1. 再エネの供給不安定化に伴うエネルギー調達コストの増加
  1. 各地域における複数の売電企業からの電力の調達の検討や、店舗への太陽光パネルの設置等による自家発電の拡大により、エネルギー調達コストの低減への取り組みを進めます。(取り組み①参照)
  1. 食品ロスへの対応にかかるコストの増加
  1. 食品ロスの削減は、外食業にとって重要な社会課題と認識し、従来から取り組んできておりますが、今後一層強化するとともに、食べ残しなどの食品廃棄物を飼料やバイオマス燃料等への再利用を行うことで、廃棄に係るコスト削減も検討してまいります。
評判
  1. お客様の環境意識の高まりによるし好の変化や脱炭素への対応が不十分であった場合のブランドイメージの悪化
  1. お客様のし好の変化に合わせた商品開発やサービス提供に取り組むことで、収益の拡大につなげてまいります。
  2. 脱炭素を含めた環境への取り組みについては、対応及び開示を積極的に行ってまいります。
  1. 脱炭素の取り組みが不十分であることによるステークホルダーからの評判悪化や資金調達コストの増加
  1. 新規サプライヤーからの調達に際しコンプライアンスや調達量不安定化のリスク
  1. 調達先の選定については、当社基準に沿って行うとともに、調達量が不足する場合の事業継続計画をあらかじめ策定することを検討いたします。
物理的リスク 急性
  1. 従業員・店舗への被害、営業停止・営業時間短縮・設備/店舗の復旧への費用、リスクの高い土地にある資産に対する保険料等のコストの増加
  1. 今後の出店の際には、物理的リスクを考慮し、リスクが高いと評価した地域へは出店を見送るなどの対応を検討いたします。
  2. 災害発生時に被害を最小限に抑えられるような店舗構造についても検討・推進してまいります。
  1. サプライヤーの漁業設備の損害等により調達が困難になるリスク、また調達コストの増加
  1. 複数社からの調達や産地にとらわれない調達を推進することで調達リスクの軽減をはかります。
  2. 調達量が不足する場合の事業継続計画をあらかじめ策定することを検討いたします。
  1. 台風・豪雨による水害によって農作物の調達が困難になるリスク、また調達コストの増加
慢性
  1. 降水パターンや気象パターンの変動に伴う原材料の収穫量の変化による調達コスト等の増加
  1. 「原材料調達における気候変動の影響」に詳細を記述しております
  1. 気温の上昇・海水温の上昇に伴う原材料の収穫量や漁獲量の減少、産地変化、品質低下などによる調達コストの増加

原材料調達における気候変動の影響

当社グループにとって影響度が大きいと考えられる主要な原材料について、各種研究機関の報告書や学術論文などをもとに、 気候変動への影響について調査・分析を行いました。すしネタとして使用量の多いマグロ、ハマチ・タイ、エビ、サーモン及び米を対象に、 調達環境と資源量の見通しについて評価した結果を以下の表に示します。
主な食材のうち魚類については、魚種ごとに主な調達地域、天然/養殖に分けたうえで、それぞれについて文献調査を行いました。 産地における多少の違いはあるものの、気温上昇の差が大きくなるのは2050年以降であることから、2050年までは2℃、4℃シナリオともに共通の動向予測をする一方、 2050年以降は、2℃シナリオと4℃シナリオとに分けて動向を予測いたしました。 結果として、2050年までは、各魚種・米ともに、水揚・生産量が急速に減少するリスクは低いと結論いたしました。
一方、2050年以降は、各魚種において、4℃シナリオの想定では海水温の上昇により、程度の差はあれ、悪影響が顕在化する可能性が否定しがたい、と結論いたしました。
また、米については、2℃、4℃シナリオともに、気温上昇による品質の低下が、高品質米の調達リスクに繋がることが懸念されます。
以上のような評価をもとに、調達安定化のための対応施策の方向性を検討いたしました。全ての原材料において、 気候変動に対応した先進的養殖・栽培技術の開発・活用を進める(事例としては、後述の「取り組み②」を参照)と同時に、 マグロ、ハマチ・タイについては従来の国内に加えて海外での養殖事業の検討、エビ、サーモンについては調達国の新規開拓や養殖の新技術開発を進めます。 米については、気候変動に応じた産地・品種の選択を行うとともに、品質確保に向けた品種改良事業の支援を行ってまいります。

主な食材 主産地 天然/養殖 調達環境/資源量見通し 対応施策の方向性
~ 2050 2050 ~
背景/見通しの考え方 背景/見通しの考え方 共通 個別
マグロ 国内・
海外 
天然
  1. 資源量の安定性
  2. 温暖気候との親和性
  1. 2℃シナリオ:2050年時点の環境が概ね継続すると想定
  2. 4℃シナリオ:温暖化の深刻化による悪影響が顕在化・拡大すると想定
  1. 気候変動に対応した先進的養殖・栽培技術の開発・活用の支援
  1. 生産者との協業の検討
  2. 海外での養殖(畜養)の検討
  3. 養殖の新技術開発支援
国内 養殖
  1. 養殖規模の着実な拡大
  2. 完全養殖等の先進技術の進歩と普及
ハマチ・
タイ 
国内 養殖
  1. 近年の気候下での安定供給実績
  2. 温暖気候との親和性
  1. 養殖の新技術開発支援
  2. 海外での養殖生産の検討
エビ 海外 養殖
  1. 巨大な養殖規模と世界的な増産傾向
  2. 温暖な気候との親和性
  3. 養殖地域の多様性
  1. 養殖生産新規国の開拓
  2. 養殖の新技術開発支援
サーモン 海外 養殖
  1. 巨大な養殖規模
  2. 養殖海域の温暖化耐性
  3. 養殖技術の多様化と進展
  1. 養殖の新技術開発支援
国内 栽培
  1. 北日本地域での増産余地
  2. 温暖気候との親和性
  3. 暑熱耐性品種開発の進展
  4. 高温障害による品質低下
  1. 適正生産地の検討
  2. 品種改良/耐暑熱品種栽培への支援

気候変動リスクへの具体的な取り組み

取り組み① 店舗への太陽光発電設備の導入

路面店を対象に、太陽光PPAを活用した店舗への太陽光発電設備の導入を進めています。 2023年8月時点で80店舗以上に導入済みで、今後も順次導入を進めてまいります。 加えて、既存店舗での追加の導入や新規出店時の設備導入についても検討しています。

取り組み② 養殖業への支援強化やフードテックの活用による調達の多様化・安定化

当社では、気候変動による魚類の調達不安定化リスクに備え、養殖業への支援強化をおこなってまいりました。 具体的には、資本参加をした尾鷲物産株式会社とともに、養殖技術の開発・確立や給餌方法の研究などを行っております。
またバイオテクノロジーやゲノム編集技術といった先進的なフードテックを活用した魚類の品種改良にも取り組んでおります。 加えて、2022年4月には、水産資源の安定的な生産・活用を目指すため、株式会社拓洋と共同で「株式会社マリンバース」を設立し、養殖魚の種苗及び餌の研究開発などを行っております。

取り組み③ 資源の有効活用を通じた気候変動対策への貢献

「スシロー」と「鮨 酒 肴 杉玉」で使用した食用油を、国産の持続可能な航空燃料 SAF(Sustainable Aviation Fuel)の原料として供給しています。
廃食用油を国産SAFに再利用することで、資源の有効活用を通じた気候変動対策に貢献する、循環型社会の実現を目指しています。

3. リスク管理

当社グループではサステナビリティ推進委員会が中心となり、気候関連リスクの把握・分析・評価を実施しております。 サステナビリティ推進委員会は代表取締役社長を委員長としており、把握・分析・評価された気候変動関連リスクについて、 適宜、必要に応じて各グループ会社・各部門等に対応策の策定及びその報告を求めております。
また、当社グループでは企業の継続的発展を脅かすあらゆるリスクを把握し、リスクマネジメント体制を整備するため、 「リスク管理規程」を定め、内部統制委員会を設置しております。グループ経営上重要なリスクは、内部統制委員会において、把握・分析・評価を行い、改善策を策定するなど、 適切な危機管理を行う体制を整えおり、気候変動関連リスクにつきましても、サステナビリティ推進委員会と内部統制委員会が連携して対応してまいります。

4. 指標と目標

当社グループでは、中核事業である国内の寿司店舗におけるCO2排出量の削減を最優先で進めるため、株式会社あきんどスシローのCO2排出量目標を以下の通りとします。
2030年度:CO2排出量(Scope1 + 2)の2013年度対比で原単位50%以上の削減
2050年度:カーボンニュートラル

当社グループでは、気候変動対策には事業活動によるCO2排出量の削減に加えて、社会のCO2排出量の削減に貢献する技術開発や事業推進が重要と考え、グループ全体で取り組んでいきます。

グラフ

注:原単位(売上高100万円を分母)あたり排出量ベース。 2013年度のCO2排出量を100とした場合の比率
  2013年度のCO2排出量は63,311トンーCO

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