美味しいおすしを届け続けるために
── 上席執行役員 荒谷に聞く、「川上事業」の現在地
F&LCは近年、養殖への参入や生産者との長期契約など、食材の安定調達に向けた取り組みを加速させています。「川上事業」と呼ばれるこの領域を統括する上席執行役員 荒谷に、その背景と思いを聞きました。
プロフィール
上席執行役員 荒谷和男
営業畑出身。スシローの香港拠点の社長や中華圏担当役員も務めた経験を持つ。現場を知り、海外での事業拡大を肌で感じてきた立場を経て、現在は川上事業を統括。
※所属・役職は取材当時のものです。
買うだけでは、届けられなくなる
―― 川上事業に本格的に取り組み始めた背景を教えてください。
以前から、従来通りの仕入れのやり方だけでは将来的に必要な量を確保できなくなる、という課題感がありました。
水産資源には限りがあります。10年前と比べても、漁場で獲れる魚の量は明らかに減っている。水温の上昇で、かつてたくさん獲れていた漁場で獲れなくなるケースも出てきています。こうした変化が起きている中で、単に市場から買い続けるだけでは、お客さまに安定した品質とお手頃な価格でお届けすることが難しくなってきたんです。
全国で統一のメニューを展開し続けるためには、大量かつ安定した調達が前提です。世界中に美味しいおすしを届けていきたいという目標がある以上、調達の課題から目を背けることはできない。だから川上から関わる、という選択をしました。

この美味しさと品質を、お手頃な価格で届ける
―― 具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
スシローは「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」という使命を大切にしています。お客さまに、いつお店に来ても美味しいおすしをお手頃な価格で召し上がっていただけることが大事。その安定をつくるために、協業いただく生産者さまと養殖に取り組んでいます。
ブリ・ハマチについてはマダイ養殖大手の拓洋さまと合弁会社のマリンバースを設立し、人工種苗(※)から生産する取り組みを進めています。研究段階を経て、すでに一部の地域では出荷が始まっており、品質の高さも確認されています。
(※人工種苗=養殖の親から人工的に生まれた稚魚のこと)
ちなみに、川上事業にはさまざまな業種の企業が参入してきています。それだけ、この領域に向き合う必要性を多くの企業が感じているということでもあります。
川上に踏み込んで、見えてきたもの
―― 川上に踏み込んだことで、何が変わりましたか。
一番大きいのは、生産者さまと直接話をさせていただける機会が増えたことです。以前は出来上がった魚の品質をチェックするのが仕事でしたから、そこから先は見えていなかった。それが川上に入ったことで、どう育てれば良い品質になるのかを一緒に考える立場になった。業界の最先端で何が起きているのか、どんな課題を抱えているのか――そういうことを、直接的に知るようになりました。
食材を届けてくれる人たちの思いやノウハウに触れると、自分たちの役割がはっきりしてくるんです。生産者さまの技術や思いを受け取って、店舗を通じてお客さまにお届けする。いわばリレーですよね。そのバトンを渡す役割を自分たちが担っているんだという感覚が、以前よりずっと強くなりました。

まだ始まったばかりの世界
―― 今後の展開について聞かせてください。
まだスタートして数年なので、川上に関わる取り組みは発展途上にあります。
面白いなと思うのは、魚の養殖という分野は、畜産や農業と比べて歴史がまだ浅く100年程度しかないんです。牛や豚、米の生産が何千年もかけて改良を重ねてきたのに対して、魚の養殖はまだまだ発展の途上にある。言い換えれば、これからできることがたくさんある、ということです。改善の積み重ねが、お客さまの手の届く価格を実現しますし、品質も安定性もまだまだ変えていける余地があります。
一方で、養殖に適した場所には限りがあるなど、課題もあります。一つずつ向き合いながら前に進めていかなくてはなりません。
10年後も50年後も
―― 最後に、川上事業を通じて目指していることを教えてください。
もしおすしが食べられなくなったら、どうですか? 嫌ですよね。
これ、冗談で言っているわけじゃないんです。持続可能性という言葉はよく使われますけど、私たちにとってはもっとシンプルな話で――10年後も50年後も、お客さまに美味しいおすしを届け続けたい。ただそれだけなんです。環境保護や資源の保全というのは、その先におのずとつながってくるものだと思っていて、だからこそ今できることを一つずつ進めています。
世界にはまだおすしを食べたことがない地域がたくさんありますから、そういう方々にもぜひお届けしたい。どこのおすし屋さんよりも美味しくて品質が高く、価格もお手頃――そう言っていただける存在を目指して、川上から川下まで、やるべきことをやっていきたいです。
